1。大腸菌の細胞分裂装置の研究 研究者らは先に大腸菌の細胞分裂に関与し、細菌細胞の形を決定している遺伝子 mreB、mreC 及び mreD を見出し、同定してきたが、今回遂に mreBCD 遺伝子の下流に近接した遺伝子 cafA が、細胞分裂に重要な働きをすると思われる細胞骨格様タンパク質cytoplasmic axial filament をコードしていることを見出した。cafA遺伝子を過剰に発現させると、分裂している細胞を縦断して細胞の一端から他端までを結ぶaxialfilamentが光学顕微鏡及び電子顕微鏡によって観察された。このタンパク質のアミノ酸配列は大腸菌のRNaseEおよびミオシン様タンパク質と考えられているタンパク質と部分的に相同性がある。その他大腸菌の細胞生長・分裂に関する遺伝子が集まっている染色体上のmra領域の遺伝子の解析をほぼ終了した。 2。ブドウ球菌の細胞分裂装置の研究 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌が高濃度のβ-ラクタム剤(メチシリンその他)の存在下に機能させている細胞分裂装置の重要なものはMRSA-PBPとよぶペニシリン結合タンパク質である。このタンパク質の遺伝子mecAの発現には染色体上の種々の因子が関与している。今回β-ラクタム剤による誘導の機構のほかに、mecA遺伝子のすぐ上流と下流にあるDNA配列がmecAの発現をそれぞれ正と負に調節していることが明らかになった。また1960年英国で初めて分離されたMRSA株ほか2株のMRSA株のmecA遺伝子のDNA塩基配列を決定し、すべてのMRSAのmecA遺伝子がペニシリナーゼ遺伝子とペニシリン結合タンパク質遺伝子の融合によって過去に唯一回出来たものであろうという、私達の以前の仮説を確認した。
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