筆者はてんかん症の成り立ちを遺伝子レベルで解析するための研究を進めている。これまでに代表的なモデル動物として知られたElマウスの脳では、神経毒といわれるキノリン酸の合成酵素活性が対照マウス比べて著るしく高いことを突き止めた。われわれはまた脾臓など末梢組織では両群ともに高く、かつ差がないことも見出した。そこでこれらの現象を次のように解釈している。本来当キノリン酸合成酵素はトリプトファンからNADを合成する重要な経路に位置する。末梢組織でその活性が高いのはこのためと思われる。しかし脳ではキノリン酸が神経毒になるため、当酵素の遺伝子発現は抑えられていなければならない。その抑制がはずれてしまったことーこれが本マウスのてんかん症の遺伝的素因の実体ではないかと考えている。末梢で発現している遺伝子が脳ではいかに抑えられているのか、それがなぜElマウスでははばれてしまったのかーこの問題は遺伝子発現の脳特異性を考える上でも興味深い。そこで本酵素遺伝子を精製して構造を明らかにし、その発現調節機構を解析するための研究を行っている。これまでにまず本酵素をラット肝より精製した。現在そのN末端アミノ酸配列の決定を行っている。今後は本酵素に対する抗体を作製し、脳での本酵素の局在部位を免疫組織学的手法を用いて固定する。さらにN末端アミノ酸配列から推定した塩基配列を参考にして作製したオリゴスクレオチドをプロ-ブとし、CーDNAの作製、ジェノミックDNAの抽出、構造の解析へと進んでゆく計画である。
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