糖タンパク質の糖鎖部分は、生体における情報伝達機構や、タンパク質分解酵素からの防御機構に関わっていることが明らかになりつつある。しかし、生体内に無数にある、活性を持たない、非特異的糖タンパク質の糖鎖部分の生理的意義については、未だ不明な点が多い。本研究は、生体内に無数にある、活性を持たない、非特異的糖タンパク質の糖鎖部分の生理的意義を明らかにすることを目的とした。すでに糖タンパク質としては卵白アルブミンを用いて、糖鎖のもつ意義について検討を行なってきた。糖鎖のみを酵素的に除去した卵白アルブミンを調べることにより、糖鎖が感受性、プロテア-ゼ感受性のみならず、糖タンパク質溶液の粘性挙動に影響を与えていることが判明した。すなわち脱糖鎖卵白アルブミン溶液の粘度は低せん断速度域おいて通常の卵白アルブミン溶液より低い値を示し、生体内においてもタンパク質の分泌、移動、流動に糖鎖が関与することを示唆した。この性質を確認するために、ツニカマイシンを用いて、in vivoで糖鎖未付加の卵白アルブミンの調製を試みたところ、多量の糖鎖未付加の卵白アルブミンを得、そのタンパク質の粘性、および流動性を調べ、先に酵素を用いて得られた事実を支持する結果を得た。これらの性質は食品タンパク質の物質や性質にも大きく影響を与えているものと思われ、その点についても検討した。さらに本研究では、糖タンパク質における糖鎖の新たな生理的、生化学的意義を普遍化するための実験として血清タンパク質に種々の糖鎖を結合した合成糖タンパク質を用いて、粘性挙動に対する効果を通常の血清アルブミンと比較した。その結果、卵白アルブミンにおいてすでに見出されているのと同様の結果が得られた反面、標品によってはむしろ従来とは逆の結果を与えるものも見られ、タンパク質の構造上、もとのタンパク質とは異なる挙動が認められた。つまりこれは糖鎖の化学修飾法による導入がタンパク質の構造に複雑な影響を与えたものと理解した。この点については今後のさらなる検討を要する。
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