タンパク質の生合成は、DNAの遺伝情報に基づき転写されたm-RNAがリボゾームでポリペプチド鎖に翻訳され、そのポリペプチド鎖が小胞体やゴルジ体で様々な修飾をうけることによって完成する。翻訳後修飾としては、ポリペプチド鎖の切断、リン酸化、硫酸化、メチル化、アセチル化、ADP-リボシル化、アシル化、糖鎖付加、ジスルフィド架橋などがある。これらの中でも、癌化とリン酸化とは極めて重要な関係がある。 近年、リン酸化と分子的に非常に類似した硫酸によるタンパク質のチロシン残基の修飾が見つかり注目されている。硫酸化チロシンタンパク質の硫酸供与体は活性硫酸PAPSすなわち3'-ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸である。それは細胞質可溶性画分で生合成され、そしてゴルジ体に入りタンパク質チロシン硫酸転移酵素(TPST)により硫酸化に使われる。 翻訳後修飾としてのチロシン硫酸化の生体内での機能はまだ完全に明らかになっていないが、タンパク質の生理活性調節、機能の多様化、タンパク質分解酵素に対する安定性への寄与、そして選別輸送を含めた分泌のためのシグナルの可能性が考えられる。近年、遺伝子工学の発展に伴い組み換えタンパク質の医薬、研究用試薬への利用が考えられている。しかし、大腸菌や酵母を用いて遺伝子の発現を行った場合、得られたタンパク質が翻訳後修飾をなされていないことにより、その機能を有していない場合があり、問題にされている。チロシン硫酸化もこのような修飾の一つである。そこで今回、65個のアミノ酸からなる血液凝固阻害剤ヒルジンをモデルタンパク質として、上記酵素を用いて天然型ヒルジンの作製を試みた。 その結果、63番目のTyrのみの硫酸化に成功し、天然型ヒルジンを得た。これらのことより、組み換えタンパク質の翻訳後修飾として、牛肝臓由来のTPSTを用いて特異的チロシン硫酸化が可能となった。
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