食餌組成の変化により、血中アミノ酸組成が変化し、それに伴ない脳内物質、特に脳機能において重要な役割を担っている神経伝達物質が比較的容易に変動することが分かってきた。一方、老化にともないある種の脳内神経伝達物質が低下しある種の神経性疾患・老人性痴呆、また脳機能の低下することも報告されている。そこで、アミノ酸栄養の立場から如何に脳機能を健全に保ちうるか、また、食餌によりどこまで如何にコントロ-ルしうるかについての検討を行った。 [1]離乳直後の雌雄ラットを700日間飼育し経日的に解剖した。雌雄ラットの加齢に伴う体重増加は、これまで一般に知られているように雌よりも雄の方が2倍程高かった。各種臓器重量のうち加齢と伴に著減するのは肝臓・副腎・心臓・肺であった。加齢に伴って増加するアミノ酸は、雄ラットではアラニン・ロイシン・リジン・アリギニンであり、雌ラットでは余り大きな変化はなかった。炭水化物の摂取により血中アミノ酸濃度及びアミノ酸比は各々変動するがその様式は個々のアミノ酸により異なった。炭水化物の摂取と血糖との関係を調べたところ、加齢とともに糖の吸収は低下していると思われた。また、インスリンのレスポンスにも差異が見られた。血圧は加齢とともに増加するが、雌雄による差異はなかった。食餌組成の違いによる脳内神経伝達物質の変動が加齢とともに低下し、その程度は雄ラットで顕著であった。 [2]脳内神経伝達物質の変化と学習行動との関連を調べた。分離大豆蛋白質にメチオニン・スレオニンを補足した場合のオペラント型明度弁別学習試験を調べた。その結果、分離大豆蛋白質にアミノ酸を補足した場合、脳内セロトニン量は減少するが、栄養価は改善され、学習効果は改善された。セロトニン作動性ニュ-ロンの活性化よりも栄養条件と学習効果との相関が示された。 [3]高齢者の体内で起こる栄養生理学的変化と同様のことが、無重力下での宇宙飛行士においても観察される。そこで、栄養代謝の重力適応を調べた。模擬微小重力環境として、ラットを宙吊り(懸垂)にし、体内代謝などを測定した。結果、加齢に伴って生ずるカルシウムの脱灰が宙吊りラットでも観察され、カルシウムバランスも低下する。その際骨組織中のDNA・アルカリフォスファタ-ゼ活性の低下も観察され、現在その他の代謝変動の機構を調べている。
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