人工的に改変した遺伝子を用いて、細胞内の遺伝子を相同的組み換えにより置き換えることが出来れば、はるかに効率のいい育種が可能となる。そこで、DNAの組み換えという重要な細胞機能について、応用面での期待の大きい高等植物や酵母を用いた研究を行なった。 ドイツ連邦共和国マックスプランク研究所と共同で、欠損を持つカナマイシン耐性遺伝子(大腸菌に由来するNPTII遺伝子)を高等植物であるタバコ細胞に導入し、相同的組み換えの検出を試みた。その結果、NPTII遺伝子の二種の欠損変異DNAを混ぜて導入した場合、逆向きの二種の一本鎖DNAを組み合わせると極めて高頻度でカナマイシン耐性のカルスが得られた。これらのカルスのDNAをPCR法により解析すると、いずれも完全長のNPTII遺伝子を持ち、また一部は片方の欠損を持つ遺伝子をも合わせて持っていた。しかし、二重に欠損を持つ遺伝子は検出されなかった。一方、分裂酵母に電気パルス法により上記の欠損を持つNPTII遺伝子を導入後全DNAを抽出し、PCR法により解析したところタバコ細胞の場合と同様に、効率的に完全長のNPTII遺伝子が得られたものの、二重に欠損を持つ遺伝子は検出されなかった。 二重に欠損を持つ遺伝子がタバコ、酵母の両者で検出されなかったことから一本鎖DNA同士の効率的な組み換えは、相同的組み換え機構の一部である遺伝子変換(gene conversion)と同じように非相互的(non-reciprocal)に行なわれているものと思われる。また、形質転換頻度、およびPCRによる解析の結果から、細胞に導入した一本鎖DNA上で複製が起こり、その後に二本鎖DNA間で組み換え反応がおこるのではなく、細胞に導入された一本鎖DNAが直接、組み換えや修復の機構によって処理されることも明かとなった。二つの一本鎖DNA間で部分的に二本鎖となったDNAが生成することを必須条件の一つとする相同的組み換え反応が高等植物および酵母に共通して存在するものと孝えられる。
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