研究概要 |
酵母は細胞生理学・分子生物学の多くの研究分野で真核生物の優れたモデルとなっている。分裂酵母Schizosaccharomyces pombe(SP)は広く用いられている出芽酵母Saccharomyces cerevisiae(SC)よりも更に動物細胞によく似た性質をもつと考えられており、蛋白質の膜透過と細胞内輸送の機構の解析のうえでも両者の比較は有用な知見をもたらすと考えられる。本研究では、SCで確立した系を改良発展させてSPの無細胞分泌系を確立した。膜系としてspheroplastを凍結融解することにより高分子透過性にしたものを用い、最初はSCの細胞質画分を用いてSCの分泌蛋白α因子前駆体を膜透過させることに成功した。この際、蛋白はSCにおけるのと同様の分子量のN糖鎖修飾を受けた。次に、添加する細胞質成分もSCではなくSP由来のものとするため、α因子前駆体を合成する蛋白合成系をSPの細胞から調製し、種々の塩濃度を最適化することにより組み立て全成分がSP由来である無細胞膜透過系を確立することができた。更にSPのspheroplast形成条件を改良し、KClを浸透圧保護剤とすることにより膜透過効率を30%まで向上させることができた。α因子前駆体の膜透過はSそ,SPとも翻訳終了後にも起こるので蛋白合成阻害剤シクロヘキシミド耐性であったが、各種阻害剤の影響を調べる中でSPの系のみがピュロマイシンに感受性なことを見出した。膜系と細胞質画分をSP由来とSC由来で交換してみるとSP由来の膜系が感受性であった。ピュロマイシンの作用に関しては更に検討が必要であるが、リボソ-ムからポリペプチドを解離させる既知の作用以外にSPの小胞体膜上の蛋白質膜透過装置に作用している可能性を示唆する結果を得ている。
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