キチナーゼは様々な分野で応用研究がなされているが、その基礎的な理解はきわめて不十分である。そこで我々はグラム陽性細菌Bacillus circulans WL-12のキチン分解酵素系を中心に、キチナーゼの基礎研究を強力に押し進め、得られた知見を応用研究に資することを目的に研究を行っている。本菌の培地中には少なくとも少なくとも6種のキチナーゼが検出され、それらは4つの遺伝子の由来すると考えられる。そのうちのキチナーゼDをコードする遺伝子の塩基配列決定と遺伝子産物の解析の結果、キチナーゼDはキチナーゼA1と同様キチン吸着ドメイン、フィブロネクチン・タイプ3様ドメイン、活性ドメインの3つのドメインからなることが明かとなった。またキチナーゼA1に部分的な欠失を導入することによって、吸着ドメインが不溶性基質の効率的な分解に重要であること、またタイプ3様ドメインは不溶性基質への吸着には直接関与しないが、吸着した酵素による不溶性基質の効率的分解に必要とされる事を明らかにした。さらにキチナーゼA1とDの活性ドメインのあいだの、弱いアミノ酸配列の類似性を示す領域と対応する領域が、植物のクラス3キチナーゼ、他の原核生物のキチナーゼ、エンドーβーNーアセチルグルコサミニダーゼ等に存在する事を昨年度見いだしたが、この領域に高度に保存されているアミノ酸はこれらの酵素の活性に直接関与していると考えられた。この予測を確かめるための、キチナーゼA1の部位特異的変異の実験が進行していたが、この実験をほぼ終了し、G1uー204とAspー200がキチナーゼA1の触媒機構に直接関与していることを明らかにした。
|