キチナーゼはキチンを含む有害生物の生物学的制御や、GlcNAcオリゴマーの生産などに利用できると考えられ、様々な分野で応用研究がなされている。しかしながらキチナーゼに関する基礎的知見はきわめて不十分である。そこで我々はグラム陽性細菌Bacillus circulans WL-12のキチン分解酵素系に着目し、分子遺伝学的方法を用いてキチナーゼの基礎研究を協力に押し進め、得られた知見を応用研究に資することを目的に研究を展開した。その結果、主要な成果として以下のような重要な知見を得ることが出来た。(1)本菌の主要なキチナーゼ、キチナーゼA1およびDがキチン吸着ドメイン、フィブロネクチン・タイプIII様ドメイン・活性ドメインの3つのドメインからなることを明かにし、吸着ドメインが不溶性基質の効率的な分解に重要であることを示した。またタイプIII様ドメインは不溶性基質への吸着には直接関与しないが、吸着した酵素による不溶性基質の効率的分解に必要とされる事を示した。(2)本菌のキチナーゼA1とDのアミノ酸配列の比較をもとにして、植物のクラスIIIキチナーゼ、他の原核生物のキチナーゼ、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ等に存在する類似したアミノ酸配列部分を見いだし、この領域がこれらの酵素の活性に重要であることを予測した。この予測を確かめるために、キチナーゼA1の部位特異的変異を行い、Glu-204とAsp-200がキチナーゼA1の触媒機構に直接関与していることを明らかにした。キチナーゼの活性に直接関与するアミノ酸残基を同定したのは、これが世界で最初の例である。
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