炭素-リン酸(C-P)結合は極めて安定であり、通常の有機化学的手段でその結合を切断することは困難とされている。C-P結合の切断は生化学的にも困難と考えられ、実際、現在の生物はリン酸エステル結合(C-O-P)の形でリン酸を利用する。所が、貝類などある種の生物は(C-O-P)の形ではなく、C-Pの形でもリン酸を利用していることが明らかにされている。C-P結合を有する化合物は殆ど全ての生物の細胞膜に微量存在するが、その生理機能は全く不明である。一方、C-P結合を有する多くの有機合成化合物が除草剤、殺虫剤などとして大量に自然界に散布されており、環境論的に大きな問題となってきている。この様な現状に鑑み、C-P化合物の生理機能、C-P結合性リン酸の生体内代謝純答、及び、C-P化合物の代謝に関連する酵素とその遺伝子の構造と発現機構を微生物について明らかにすること目的として研究を行い、以下の結果を得た。(1)細菌には少なくとも3種類のC-P結合解裂酵素(C-P lyase、C-P hydro-lase、phosphonatase)が存在する。Phosphonataseは、既に不安定化されたC-P結合のみ切断する。他方、C-PlyaseとC-Phydrolase安定なC-P結合を切断する。(2)細菌E.aerogenes IF012011は、C-P lyaseとC-Phydrolaseを有する。この細菌のC-Phydrolaseは活性発現に2種類のタンパク質(E2とE3)を必要とする。E2は少なくとも6種類のタンパク質から成り、その分子量は約650KDaである。E3は分子量55KDaのサブユニット2個からなる。E2機能は、安定なC-P結合を不安定化することである。E3の機能はその不安定化されたC-P結合を解裂することである。(3)(2)で精製した酵素の遺伝子を含む25KbaのDNA断片を得た。この遺伝子は少なくとも、8種類のタンパク質をコードしており、酵素化学的解析結果を指示していた。
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