研究概要 |
食品蛋白質の酵素消化によって種々の生理活性を持ったオリゴペプチドが派生する。遺伝子の塩基置換によって,よりすぐれた生体調節機能を具えた食品蛋白質を設計,生産するための基盤として,カゼインから我々が既に単離している生理活性ペプチドについて,アミノ酸残基を置換した誘導体を合成し,どのようなアミノ酸残基の置換,さらには遺伝子の塩基置換が望ましいかを推定した。牛乳κーカゼインのトリプシン消化により派生するcasoxin C(TryーIIeーProーIIeーGlnーTyrーValーLeuーSerーArg)は種々の生理活性を持った多機能性ペプチドである。本ペプチドのC末端5残基とガン転移阻害活性を持つラミニンペンタペプチド(TyrーIIeーGlyーSerーArg)の間にはホモロジ-が認められるが,casoxin Cそのものはガン転移阻害活性を示さなかった。そこでcasoxin CのLeuをGlyに,またValーLeuをIIeーGlyに置換したペプチドを化学合成したところ,後者はガン転移阻害活性を示した。一方,この置換ペプチドは,casoxin Cが本来持っていたオピオイドアンタゴニスト活性および回腸収縮活性を示さないが,アンジオテンシン転換酵素阻害活性は保持していた。牛乳α_<s1>ーカゼインのペプシンーキモトリプシン消化によって派生するcasoxin D(TyrーValーProーPheーProーProーPhe)は動脈弛緩活性を持ったペプチドである。desーTyrーcasoxin Dも同様な活性を示すが,牛乳βーカゼイン中に存在し,これと2残基のみ異なるValーValーValーProーProーPheは活性を示さない。この配列を一残基置換して得られたValーValーPheーProーProーPheはcasoxin Dの約7倍の動脈弛緩活性を示した。これらの事実はカゼインのアミノ酸残基を1〜2残基置換するための塩基置換を遺伝子に施すことにより新たな生理活性を導入しうることを示している。
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