研究概要 |
食品蛋白質の酵素消化によって派生する生理ペプチドを探索するとともに、将来、遺伝子の塩基配列を置換することによって機能性のより優れた食品蛋白質を生産するための基盤として、得られた生理活性ペプチドについてアミノ酸残基を置換、または削除した誘導体を合成し、それらの構造-活性相関を検討した。人乳α_<S1->-カゼイン由来のcasoxin D(Tyr-Val-Pro-Phe-Pro-Pro-Phe)は内皮依存性の動脈弛緩活性を有するペプチドであり、自然発症性高血圧ラットに静脈内投与した際には、血圧降下作用を示す。casoxin Dはブラジキニンレセプターに結合し、内皮由来弛緩因子としてプロスタサイクリンの放出を介して作用する。合成した種々のcasoxin D 誘導体のうち、Tyr-Pro-Phe-Pro-Pro-Phe、Val-Val-Phe-Pro-Pro-Phe、およびTyr-Val-Phe-Pro-Pro-Pheはそれぞれ、casoxin Dの約1/4,1/7および1/10の濃度で動脈弛緩活性を示した。特にTyr-Pro-Phe-Pro-Pro-Pheは経口投与の際にも血圧降下作用を示した。一方、Tyr-Pro-Phe-Pro-Pro-Leuはcasoxin D の数万分の1の濃度で動脈弛緩活性を示し、しかもその際に関与するのはブラジキニンレセプターではなく、また内皮由来弛緩因子もプロスタサイクリンではなく一酸化窒素(NO)であった。小麦グルテンの酵素消化物から3種類のオピオイドペプチド、Gly-Tyr-Tyr-Pro-Thr,Tyr-Gly-Gly-Trp-Leu,およびTyr-Pro-Ile-Ser-Leuを単離し、それぞれgluten exorphin A,B,およびCと命名した。特にgluten exorphin CはTyr以外に芳香族残基を含有しない点で既知のオピオイドペプチドと著しく異なっている。gluten exorphin Cにホモロジーを持った配列、Tyr-Pro-Leu-Gly-Glnがグリアジン中に存在する事から、本ペプチドを合成したところオピオイド活性を示したのでgluten exorphin D と命名した。また、gluten exorphin C およびD の誘導体を合成した結果、いずれよりも高い活性をもつペプチドとして、Tyr-Pro-Ile-Gly-Gln,Tyr-Pro-Ile-Gly-Leu,Tyr-Pro-Ile-Gly-Ile,Tyr-Pro-Ile-Gly-NH_2が得られた。
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