アブシジン酸は、8'位が水酸化された後ファゼイン酸に異性化することによって代謝不活性化される。アブシジン酸の不活性化を防ぎ、活性を持続させるために、8'位を代謝されにくいフッ素などで修飾したアナログの合成を試みた。 先ず8'位アナログの出発物質となる2、6ージメチルー2ーヒドロキシメチルシクロヘキサノンを合成した。そのケタ-ル体のフルオロ化をジエチルアミノサルファ-トリフルオライド(DAST)で試みたが、分解物を与えただけで、フルオロ化物は得られなかった。8'位フルオロ体の合成は困難であったので、次にファゼイン酸への異性化をブロックした8'位メトキシ体の合成を行った。 上記のケタ-ル体をメチル化後、保護基を外し側鎖を導入してメトキシーβーヨノンを得た。Witting反応によって側鎖を伸長し、6員環に2重結合を導入後、光増感酸化して8'ーメトキシアブシジン酸のジアステレオマ-混合物を得た。ジアステレオマ-の分離は困難であったので、そのまま生物試験に供した。 生物試験にはレタス種子の発芽阻害試験を用いた。発芽を完全に阻害する濃度は(±)ーアブシジン酸が10ppmであったのに対し、8'ーメトキシアブシジン酸は1ppmであった。4種類の異性体のうち、(+)ーアブシジン酸と同じ絶対配置をもつ1'S、6'R体は1ppm以下で活性を示すと考えられる。これまでに合成されたアブシジン酸誘導体の中で、アブシジン酸よりも活性の強いものは知られていない。8'ーメトキシアブシジン酸は、アブシジン酸よりも活性の強い有望な誘導体になる可能性がある。今後、8'ーメトキシアブシジン酸の異性体の分離と、各異性体の活性、作用の持続性などを調べる予定である。
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