研究概要 |
1.ヒバ稚樹の伏条繁殖と齢構造 雫石盆地から奥羽脊梁へ移行する山地帯に成立するミズナラーヒバ林を研究の対象とし、林床に生育するヒバ稚樹の伏条繁殖のプロセスについて検討を行なった。ヒバ稚樹の個体群密度は、3.2本m-2であった。樹幹長別本数分布は、典型的なL字型を示し、20から40cmにピークがあり、80cm以上のものはわずかであった。稚樹の地際部の年齢は、個体の大きさで変化し、大きなものほど年齢が高く、30から40年生の個体が大部分を占めた。個体の地下部には、葡伏する地中幹があり、独立した個体の他に、別個体と連係関係にあるもの(伏条繁殖稚樹)が少なくなかった。この連係は、第1代から第3あるいは第4代にわたっており、おおよそ100年間で20個体を発生させていた。これらの繁殖個体は、斜面の下方に向かって生じ、繁殖域の下方への拡大速度は、おおよそ100年間で300cmであった。 2,ヒバ稚樹の遺伝子分析 上述の1.と同じ調査ブロットで、ヒバ稚樹の当年生葉を実験材料として、ShDH,6PGD,PODなどの酵素種について、アイソザイム分析を行なった。各酵素の組合せによって、18の遺伝子型が認められた。各タイプの分布構造については、稚樹全体ではランダム型の分布を示するのに対し、著しい集中型を示した。これは、稚樹群の形成に伏条繁殖が大きく関与していることを意味する。斜面において、伏条繁殖で生じたとみられるある遺伝子型の集団の上方に、必ずしも同一遺伝子型の個体が認められなかったことから、第一代は実生個体であると考えた。このことより、何らかの撹乱によってヒバ実生個体が発生し、伏条繁殖によって新たな個体の発生を繰り返しながら、現在の個体群が形成されたと推察した。
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