本年度は超音波の伝播速度に及ぼす水分傾斜(分布)、木理角および比重の影響について検討した。得られた結果の概要は次の通りである。 1.超音波の伝播方向に水分傾斜(分布)がある場合には、複合則がほぼ成立した。 2.超音波の伝播方向と平行方向に水分傾斜(分布)がある場合には、超音波の伝播速度の大きい部分の影響が大きかった。 3.LR面、LT面における伝播速度の木理角に対する変化は針葉樹材、広葉樹材とも強度やヤング率のそれに対する傾向と類似の傾向を示し、Modified-Jacobyの式でうまく表現できた。しかし、RT面では針葉樹材と広葉樹材で年輪傾角に対する傾向が異なった。すなわち、針葉樹材では年輪傾角50度付近の極小値を持つ傾向を示したのに対し、広葉樹材ではR方向からT方向に年輪傾角が変化するにつれて伝播速度も漸減する傾向を示した。この違については明らかでないが、両者の組織構造の差異による伝播径路が起因しているものと思われる。 4.繊維方向の伝播速度は比重と正の相関を示す樹種グループ、負の相関を示す樹種グループ及び相関を示さない樹種グループに分けられた。ここで、伝播速度(V)とヤング率(E)、比重(ρ)との間にV=√<E/ρ>の関係が成り立つとすれば、正の相関を示す樹種グループはヤング率が比重の3乗で増加するグループであり、負の相関を示す樹種グループは比重が増加してもヤング率は一定であるか、あるいは減少する樹種グループである。相関を示さない樹種グループはヤング率が比重と一次の比例関係を示すグループである。それぞれのグループが針葉樹材だけ、あるいは散孔材だけと言うように、巨視的な組織構造の違いによって各グループ分けが出来ると説明し易いのであるが、そうゆう結果にはならなかった。
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