ヘミセルロ-スの化学の現状をみると、単離した試料の一次構造についてはほゞ解明されているが、細胞壁中における分布およびセルロ-スやリグニンとの結合を含む高次構造や各種の反応における挙動については未だ充分には解明されていない。筆者らはこれらの課題を解明するため、ラジオトレ-サ-を用いる新しい研究法を開拓し、ヘミセルロ-スやペクチンのみを選択的に標識することを可能とした。本研究は、この標識ヘミセルロ-スおよびペクチンを用いて細胞壁内におけるこれら多糖の分布や反応を解析することを目的とした。 1.標識ヘミセルロ-スおよびペクチンの木部細胞壁内における分布:肥大生長中のコブシ樹幹にミオイノシト-ルー[2- ^3H]を投与してキシランのみを選択的に標識した。分化中の木部細胞壁への標識キシランの堆積をミクロオ-トラジオグラフ法で可視化した。キシランは、細胞壁形成の中後期、二次壁の木質化に先立って最も多量に堆積することがわかった。ついでDーグルクロン酸ー[6ー ^<14>C]を合成してコブシおよびイチョウに投与後、24時間あるいは3ケ月代謝させて、新生木部でのペクチンは、細胞壁分化の最も初期の中間層に、リグニンに先立って堆積すること、その一部は細胞壁の分化の進行に伴って分解し、転換利用されるが、完全に木質化した細胞壁中にも多量のペクチンが残留していることが明らかとなった。これを利用して磨砕リグニンの起源を明らかにした。 2.クラソンリグニン中の残留炭水化物の測定:クラソンリグニン定量法は、植物試料中のリグニン定量法として広く用いられている。キシランのみを標識したコブシの木粉から調整したクラソンリグニンは放謝活性であり、その放射能量から、クラソンリグニン中には約8%のキシランまたはキシラン由来の物質が含まれていることがわかった。
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