個体を中心とした考え方によるLomnickiのモデルを拡張し、放流個体の遺伝的な特性によって自然の個体群がどのような影響を受けるかを考察し、遺伝的な特性が放流種苗と天然の稚仔とで同じ場合、異なっている場合について、放流が個体群に与える影響を理論的に明らかにした。 各々の個体が与えられたリソ-スを分け合うスクランブル型競争ではリソ-ス獲得の能力に遺伝的な差がないとき、および、たとえ遺伝的な差があるときでも自然個体群に対して過大な放流を行なうことによって、個体群が絶滅してしまう危険性がある。いっぽう、順位の高い個体がリソ-スを独占してしまうコンテスト型競争では、放流個体の生存に対する遺伝的特性が自然の個体のものより劣っていると、自然の個体数がある程度大きいと放流は個体数の増大にまったく意味をなさない。さらに、放流個体が生き残って再生産を行なうと子孫に遺伝子が受け渡されることにより個体群の遺伝的組成を変化させてしまう場合がある。しかし、逆に、放流個体の遺伝的特性が天然のものより優れていると、放流量の増加にともない放流個体が自然の個体を駆遂してしまい、ついには、放流個体のみが存在することになる。即ち、放流個体の遺伝的特性のみが次世代に受け継がれることになり、自然個体群の遺伝的特性が失われることになる。放流個体と自然の個体との間に遺伝的違いがある場合には、放流を慎重に行なわねばならないことが明らかになった。
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