種苗放流によって自然の個体群を管理する方策が広く採用されているが、この種苗放流事業の発展にとって集団の遺伝学的な様々な問題が生じつつある。自然の個体群に放流によって個体を付加するとき、この放流によって自然の個体群の受ける遺伝的影響を遺伝子頻度の変化として捉えた。フ化場で飼育されている集団のある遺伝子の頻度が野生の個体からなる集団の遺伝子頻度と異なっている場合、フ化場が生産された個体を野生の集団へ放流することにより遺伝子流動がおこる。 本年度は放流により遺伝的影響についてサケ類、クロソイ、マダイなどの個体群についての集団遺伝学的情報を収集した。また、フ化場由来の個体を野生集団に付加する場合の種苗放流の集団遺伝学に基づく遺伝子流動モデルを作成した。さらに遺伝子流動のシミュレーションを行なうためのコンピュータプログラムを作成した。 野生の個体数に対して一定率の人工生産された個体を放流すると野生の集団の遺伝子頻度は変化する。放流率によって野生の個体群の遺伝子頻度はフ化場集団の遺伝子頻度に近づいてくる。長時間後には、フ化場の集団の遺伝子頻度と野生のそれとは全く等しくなる。すなわち、野生の集団の遺伝的特性が変化する。フ化場の集団の遺伝子頻度が野生のものと大きく異なっている場合には大きな影響を野生集団に与える可能性が示唆された。ここで、フ化場で生産された個体は、自然環境化での適応力が野生のものと異なる場合が存在する。その時の、人工種苗の適応性と野生集団のそれとをモデルに加えて放流による自然集団の遺伝子頻度の変化を予測した。この部分はさらに検討を要する。
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