研究概要 |
申請者はこれまで各種海産無脊椎動物に遊離のD型のアスパラギン酸(D-Asp)が広く分布していることを報告した。本年度はD-Aspの分析法を改良し他の全アミノ酸の光学分割分析を試みた。その結果、光学異性体が存在する一級アミノ酸14種のうちDL-Lysを除く13種類のアミノ酸の光学分割分析が可能になった。しかし、この方法を生体成分に適用した場合、他のアミノ酸類との分離を考慮すると、完全にピークとして同定出来るD-アミノ酸はAsp,Glu,Thr,Arg,Ala,Tyr,Val,Ile,Leuの9種類であった。この方法を用いて数種の海産無脊椎動物について組織毎の遊離のD-アミノ酸の分析を行った。軟体動物ではアカガイにおいて何れの組織にもD-Aspが多量に検出されたが、他のD-アミノ酸は確認できなかった。ハマグリでは量的には少ないもののいずれの組織にもD-Aspが検出されたのに加え、極めて多量(3-24μmol/g)のD-Alaがいずれの組織にも認められた。特に閉殼筋の横紋筋に24μmol/gに達するD-Aspが検出され、これはL-Aspの3倍の値であった。しかし、ホタテガイおよびマガキではエラや外套筋にごく僅かのD-Aspが検出されるのみであった。節足動物甲殼類エビジャコ(Crangon affinis)では頭部および胴部筋肉に多量(2-5μmol/g)のD-Alaが検出されたが、他のD-アミノ酸は検出されなかった。棘皮動物キタムラサキウニではD-AspおよびD-Alaがいずれの組織にも検出され、特にD-Alaはいずれの組織でもL-Alaとほぼ同程度の割合で含まれていた。50%海水に馴致させたエビジャコを低塩分濃度海水(25%)および高塩分海水(100%)に移し、経時的にD-Alaの変化を観察したところ、低塩分条件下では3.48μmol/gから48時間後には1.13mol/gと1/3に、高塩分条件下では逆に8.72μmol/gへと2.5倍に増加した。いずれの条件でもD-AspはL-Aspの変化を大きく上回り、浸透圧調節に大きな役割を持つと共に、代謝でも活発であることが推察された。
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