近年、サケ、マス類の養殖事業が日本各地で活発に展開されているが、養殖魚の肉色は天然魚のもつサーモン・ピンクからほど遠く、このために生産量の割には養殖魚の消費が伸びない現状にある。この原因の一つとして、各養殖業者が経験と勘に頼ってサケ・マス類の肉色改善を模索していることが挙げられ、今後カロテノイド色素の筋肉への蓄積機構を科学的に解明することが急務となってきている。このような状況を背景として、本研究では遺伝的にカロテノイド色素蓄積能の欠損したwhite-マスノスケにおけるカロテノイド色素の吸収・運搬過程を正常のマスノスケ(red-マスノスケ)と比較生化学的に検討し、カロテノイド色素の筋肉への蓄積機構を解明することを目的とした。平成3、4年度に実施された本研究の成果は、次のように要約される。 1.未成熟期および成熟期red-マスノスケの筋肉および卵巣からは高レベルのカロテノイド色素が検出されたが、white-マスノスケでは卵巣以外からはカロテノイド色素は見い出されなかった。 2.卵巣カロテノイド色素量は2種のマスノスケ間でほぼ同程度の値が示された。未成熟期の2種のマスノスケの卵巣中に見い出されたカロテノイド色素は、筋肉を介さずに、直接卵巣へ移行した結果と思われた。 3.red-マスノスケでは、餌料カロテノイド色素を血清を介して筋肉、体表へ運ぶ経路と血清から直接卵巣へ運ぶ経路の二つが存在したのに対して、white-マスノスケでは前者の経路が欠損していた。white-マスノスケではカロテノイド色素を結合したリポタンパク質を筋肉ではなく、卵巣に特異的に取り込む機構が存在していると思われた。
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