本研究では有殻無脊椎動物の脱皮と殻形成など、石灰化機構におけるレクチンの生理機能を明らかにすることを目的にし、水産甲殻類アカフジツボのマルチプル・レクチンの体内分布と組成変動、炭酸カルシウム結晶化に対するレクチンの阻害作用などを検討し、以下に示す成果を得た。 1.アカフジツボ・レクチンの酵素免疫測定法を設定し、アカフジツボ組織・器官におけるマルチプル・レクチンの分布組成を調べた。レクチン総量の70%以上は体腔液にあり、残りは各組織に分散していた。レクチン組成含量には季節変動がみられた。また、体液の2次元電気泳動と酵素免疫測定法による分析の結果、レクチンは体液タンパク質の主要成分(20-30%)であることが分かった。 2.岩手県と高知県から採取したアカフジツボのレクチンを分析して日本沿岸に分布するアカフジツボには地理的種内遺伝変異が存在することを示した。 3.無脊椎動物の殻を形成するマトリックス成分の糖とアミノ酸分析する方法を検討した。本方法を使い、キタムラサキウニとイトマキヒトデの外殻中にシアロ糖タンパク質を検出し、その糖組成を明らかにした。 4.アカフジツボのマルチプル・レクチン溶液に塩化カルシウムを添加した時に観察される紫外差吸収スペクトルの変化量から、両者間の結合定数を求め、BRA-2とBRA-3は各々、1.4x10^4M^<-1>と2.2x10^4M^<-1>であることを示した。 5.炭酸カルシウムの結晶化に対するレクチンの阻害作用を炭酸カルシウム過飽和溶液pHの経時変化によって調べた。アカフジツボ・レクチンはポリ・アスパラギン酸やホスビチンと同程度の阻害作用を示した。化学修飾による検討からレクチンの立体構造が阻害作用に重要であることが明らかになった。
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