本研究は、果実の貿易自由化が、いかなる世界市場の枠組みの中で進展し、またその中で日本の果樹農業が国際化にいかに対応しているかを中心に解明した。 (1)貿易自由化を促進する要因として農産物貿易の担い手である多国籍企業アグリビジネスの展開を分析し、(1)世界の食料がいかに多国籍企業によって支配・統御されているか、A.穀物メジャー、B.食品産業の多国籍企業、C.付加価値型の多国籍企業の3つの類型を解明した。(2)開発途上国とくにラテンアメリカへ展開した多国籍企業を、輸出特化型のブラジルのオレンジ果汁産業とチリの落葉果樹農業を事例として分析し、内部化理論に基づく生産・流通・加工のフード・システムの形成を解明した。(3)食品安全基準の国際的整合化への多国籍企業の介在が、食の安全性への脅威となることに注目した。 (2)日本への主要な果実輸出国であるアメリカ合衆国の果樹農業の現状を、(1)農法・生産力体系と企業形態との相互関係、(2)市場・産業組織構造、(3)サンベルトとスノーベルトとの地域比較、によって解明した。とくに、(4)生鮮果実市場における家族企業農場(ファミリー・コーポレーション)の効率性・優位性、(5)家族農業経営の世代継承におけるパートナーシップ協定の意義、に注目した。(3)日本の果樹農業の国際化対応について、(1)高品質化とコストダウンとを結合するため、土地基盤整備を軸とする産地戦略(静岡県三ヶ日町のみかん産地)、(2)生産者主導の販売法人設立による消費者への「葉とらずりんご」の直販流通システムの形成(青森県弘前市のりんご産地)、(3)農協組織による輸出助成金制度に支えられた20世紀なしの海外輸出システムの形成(鳥取県東郷町のなし産地)の3つの事例、3つの国際化対応を解明した。 以上(1)(2)(3)から、日本の果樹農業は、クローバルなアグリビジネスと市場競争・対抗しうる、生産・流通のトータル・システムを構築する課題にせまられている、と結論した。
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