工業では需要が弾力的であるため、供給曲線が技術進歩によりシフトしても価格の低下率は小さい。逆に需要数量の増加率は大きく、総収入は大幅に増大する。農業では需要が非弾力的であるため農産物供給曲線がシフトすると、農産物価格は著しく低下する。従来の農業工業間交易条件は生産物価格比として定義されていて、これは農産物価格政策、為替政策、貿易政策による影響を受ける。しかしこの交易条件の変化に最も重要な影響をおよぼす要因は、農業と工業の労働生産性成長率の差である。すなわち労働生産性成長率の大きい部門に対して交易条件は悪くなる。したがって交易条件がある部門に対して悪くなることと、その部門の経済的パ-フォマンスの良否とは一致しない。さらにこの交易条件は価格統制の強い経済では有効ではない。 従来の交易条件に対して、ここでは農家所得と勤労者世帯所得の比率を交易条件として定義する。この概念は(1)両部門の労働生産性成長率および(2)農家による非農業活動を考慮に入れることができる点で、従来の概念よりある部門の経済的パ-フォマンスをより適格に表現している。農家経済活動は、農業生産だけでなく、多くの非農業経済活動をも含み、後者による所得は無視できない割合になっている。 このように定義すると、経済発展が順調に達成できるためには交易条件が農業に対して、農業での過剰労働力がなくなるまで、わずかに悪くなることが望ましい。これにより工業資本形成の源泉である農業余剰は工業へ移動し、また農業での過剰労働力も工業へ移動し、産業間構造も順調に変化していく。なお今後、この概念による交易条件を多くの国との経済発展過程の分析に利用し、その有効性を確認する必要がある。
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