研究概要 |
岡本が新沢嘉芽統博士と行った『利根川の水利』(岩波書店)で発表した昭和47・48・53年の利根川渇水の分析と,それから導かれた結論と対策の妥当性を,その後の昭和62・平成2年の渇水について再検証してみた。その結果,上流ダム群の夏季(水田潅漑期)の各時期における貯水残量とリンクして中・下流部取水量を減量させるという現行の総合管理方式のもとでは,河口部から河川維持流量(計画値)を経えた「無効放流」が発生しており,新沢・岡本提案(利根大堰越流量の定値制御と利根川河口堰の調整池化)以外に,この無効放流をなくする方法がないことが再確認された。さらに,昭和62年渇水の分析から,從前,幸いにも偶然発現していなかった,多目的ダムにおける発電部門の貯水運用の特性,即ち,発電機を通さない無効放流を極力少なくするために,所謂「豊水年」前提の貯水量管理が行われているために発生する「渇水年」(積雪量及び融雪期予測の誤りを含む)満水の非復元が発現しており,從前から我々が主張してきた,多目的ダムにおける上・工・農水優先,発電制限が行われていないための欠陥が,利根川水系でも再度明らかにされた。 淀川・矢作川については,琵琶湖を含むそれぞれの上流ダム群の流入・放流,中下流部の上・工・農水の取水量,河口への河川維持流量または最下流流量観測点での流下等の半旬平均量を記録から求め,渇水年における各水系の(利水も含む)水収支を考察した。その結果,淀・矢作両水系でも,取水制限期間のような厳しい渇水期間中にも,利根川水系と同様に,河口から計画河川維持流量を越える放流が発生していることが確認され,その原因が,上流ダム群からの安全側予測制御方式による貯水放流によるものであることが実施された。
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