研究の対象にした3ダム、愛知県矢作川水系の羽布ダム、滋賀県愛知川の永源寺ダムおよび佐賀県嘉瀬川の北山ダムは、いずれも農業用水の補給を目的に建設されたものでありながら、立地条件、建設の時期、貯水池の容量配分、また発電事業が参加しているかどうかの違い等によって、洪水管理についても、規則上、実際上様々な異なる問題点を抱えている。 ダムの操作は、河川法に根拠をおく操作規程に従って行われるものの、標準操作規程の制定以前のもの(北川ダム)、標準操作規程に基づくもの(羽布ダム、永源寺ダム)があって、予備放流方式を採る、採らないによっても、洪水時操作の環境条件が全く異なる。また、実際上の問題として、洪水の流入量把握というの技術的問題の他、下流の河道の未整備、貯水池周辺部の敷地の未買収といった、非本質的ではあるが、操作に重大な影響を及ぼす条件があることが分かった。標準操作規程に基づいて作成されたダムの操作規程には、その実行可能性についていくつかの問題点が指摘された。その第1は、「洪水警戒時」態勢に入る判断の難しさである。その判断は基本的に気象台から発表される大雨警報によるが、その発表時刻を羽布ダムの過去の実例について調べたところ、発表の37%が、実際に「洪水時」になった後であった。第2に、洪水流入量のリアルタイムの把握が困難なため、過放流を回避しようとすれば、貯水池の水位変化を基礎にした、事後的な流入量測定しかできず、しかもそれは、測定時間間隔を短縮すればするほど測定誤差が大きくなるという構造を持っている。これによって、洪水放流操作の遅れが生じ、危険を招く。その対策として、運用上、洪水の危険がない時にも、貯水位を満水にしないで、0.5ないし3メ-トル低く管理することが一般に行われ、実質的な利水容量の減少を招いていることが分かった。
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