ダムの設置による治水上の悪影響発生を回避するため、河川法に基づく標準操作規程があり、これをひな型として各ダムでは操作規程がつくられている。標準操作規程は、形式的には極めてよく整った内容をもっているが、現実にさまざまな問題が発生している。本研究は、予備放流の実施を中心に、農業用利水ダムにおける洪水管理のあり方を、実際の管理経験から検討した。 多くのダムで、大雨の予想が出されてからの予備放流実施を、危険性が高いとして、あきらめており、その結果、本来の利水容量が減少、利水上の被害を発生させていることが分かった。羽布ダムにおいて、洪水発生と気象台からの大雨警報発令の関係を分析し、標準操作規程で想定しているような信頼を、気象台警報に置くことは危険であることを明らかにした。ダムで洪水が発生したとき、予備放流の実施に十分な条件を備えた警報は、全体の15%にすぎないので、ダム独自の予備放流実施基準の開発が必要である。 羽布ダムで洪水が発生した過去の全事例で、予備放流が実施できる時間的余裕を考慮した時、気象台予報は、常に80mm以上の値であった。そこで、逆に、そのような予測が出されたときは必ず予備放流を実施するという基準を提言し、利水上の危険性の観点から、その採用の現実性を検証した。1976年から1991年の5-9月に出された80mm以上予測249事例を、半旬別に分け、過去の貯水池運用実績から、満水運用を原則にした場合の予備放流実施必要回数を求めると、十分な安全側の仮定を設けても年当たり1.3回にすぎない。小規模の出水を考えて、10cm水位低下を保証すれば、さらに治水上の安全度が高まり、かつ利水上の危険を減らすことが可能である。
|