1.乳量は乳汁を合成する乳腺細胞数と関係すると考えられている。乳牛の乳腺細胞の増殖の仕組みを明らかにするためには、牛自身の乳腺を用いて研究する必要がある。牛は実験動物の様にはたやすく供試出来ないが、食用として供試された牛の乳房は廃棄物として処理されるため、その乳腺組織を活用して初代培養用乳腺細胞を得る事が出来る。そこで牛を一頭供試した時に大量に得られる初代培養用細胞を無駄なく利用し、必要な時に直ちに細胞が使用できる牛乳腺細胞の凍結保存法の検討を行った。また無血清凍結用培養液にmethylcellulose(MC)を添加した場合の(1)乳腺細胞増殖(核へトリチウムチミジン^3H-TdRの取り込み量及びDNA量)、(2)形態的変化(オートラジオグラフィARG及び組織学的観察)を測定して、血清FCS添加の場合と比較検討した。 2.(1)無血清凍結保存法の検討のために、妊娠マウス乳腺(6匹)を用いた。その後泌乳牛4頭、去勢雄牛6頭、ホルモン処理(E/P)羊4頭を供試した。(2)乳腺組織を酵素処理後、乳腺細胞塊を収集した。一部は直ちにコラーゲン・ゲル内包埋培養を行った(新鮮時培養)。残りの細胞塊は無血清MC(0.1%または0.05%)及び10%FCS添加凍結用培地に再浮遊して液体窒素中で凍結保存した。(3)6及び12カ月凍結後急速融解して培養を行い、乳腺細胞の増殖及び形態的変化について、新鮮時培養と同様に測定を行った。 3.(1)妊娠マウス乳腺を用いた5ヶ月凍結保存の結果、凍結用培養液は無血清でも融解後細胞発育は良く、使用するMC濃度にも有意な違いは見られなかったため0.1%MC濃度を使用する事に決定した。(2)新鮮時培養で搾乳牛は細胞増殖及び形態変化を示さず^3H-TdR取り込み量も増加しなかった。一方去勢雄牛及びE/P羊は搾乳牛の10〜100倍高い取り込み量を示し、成長因子(EGF及びIGF-I)に対しても高い反応性を示した。(3)去勢雄牛及びE/P羊の乳腺細胞塊は6ないし12ケ月凍結後の培養中の形態変化及び培養終了後のARG標本は新鮮時培養と比べて明かな違いは見られなかった。また^3H-TdR取り込み量も新鮮時と同様に高い値を示し、成長因子に対しても反応した。
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