乳牛の生涯に亘る産乳能力の向上のためには、産次及び加齢の進行に伴う乳腺機能の変化とその生理生化学的機構を解明する必要がある。しかしこの点に関する知見は非常に乏しい。本研究は実験動物としてマウス及びラットを用いて乳腺上皮細胞の分化増殖能及び乳汁合成分機能と刺激因子(ホルモン及び生体活性因子)との関連について、産次または加齢に伴う変化を検索することを目的とする。産次及び日齢の異なる種〓の状態を作出し、それらの乳腺の増殖能と刺激因子との関係を比較し、現在までに得られた結果は次のとおりである。1.雄マウス(2、4、7及び17月齢)に定量のエストロゲン(E)を投与したときの乳腺発育反応(乳管分枝・腺細形成)は、加齢に従い僅かに低下する傾向がみられた。血中コルチコステロン濃度は加齢とともに増加したが、E投与によりこの増加が抑制された。下重体中プロラクチン含量は17月齢で増加し、E投与によりさらに増加したが増加率は低下した。2.若齢(3月齢)及び老齢(16〜18月齢)雄ラットにEを投与したときの血中プロラクチン濃度は老齢の方が高かった。3.同一月齢雌マウス(12月齢)を用い、E及びプロゲステロン投与に対する乳腺反応における経産(6月齢で妊娠泌乳を経験)及び未経産の差を調べたところ、乳管分枝度及びDNA量は経産の方が未経産より優れていた。4.上記3と同様に同一月齢(4〜5月齢)雌マウスの乳腺上皮細胞を単層培養したとこの細胞増殖反応は、経産(2月齢で妊娠泌乳を経験したもの)の方が未経産より低かった。老齢(15月齢で5回経産)のものは未経産を同等であった。なお、いずれの乳腺細胞に於ても、増殖因子としてコレラトキシン及びEGFを併用した場合が、それぞれの単用の場合より増殖が優れていた。以上の結果の解釈は難かしいが、少なくとも乳腺上皮細胞の感受性は加齢及び産次によって変化することが示された。
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