豚の流行性肺炎は、発育の遅延および飼料効率の低下などに基づく経済的損失が甚大であるため、マイコプラズマを原因とする家畜疾病の中でも、最も警戒を要するものの一つとされている。本病は世界各地の養豚場で発生が知られており、わが国における近年の発生率は60%以上と報告されている。本病の原因となるマイコプラズマ・ハイオニューモニエは培養が困難であり、通常の培地を用いての初代分離は一般に成功しない。このため、本マイコプラズマの生物学的および遺伝学的性状に関する知見ははなはだ乏しく、その病原因子に関する研究は著しく立ち遅れており、本菌による病理発生機序も明らかでなく、また本病の診断・予防法も確立されていない。このような現状を踏まえて、本研究は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)を利用することにより、マイコプラズマの大量培養を行うことなく、そのDNAを大量に試験管内合成させ、これを用いて、本菌の生物学的ならびに遺伝学的性状を分子レベルで解析し、その応用に途を拓くことを目的としている。本年度は、本菌のリボゾームRNAオペロン領域をPCR法により増幅させ、その一次構造を決定し、他の真正細菌との比較を行った。その結果、本菌のリボゾームRNAオペロン内スペーサー領域には、(1)tRNA遺伝子が無いこと、(2)boxA類似構造が保存されていること、(3)入れ子様式のステム・ルール構造をとり得ること、(4)プロモーター様構造がみられること、(5)全体としてアンチターミネーターの構成をとることなどが初めて明らかにされた。また、本菌のリボゾームRNAオペロン内スペーサー領域は、他のマイコプラズマ種に比べ1.5〜2倍の長さがあり、これをマーカーとして、菌種の同定や診断への応用が可能と思われ、これは今後の検討課題として残された。
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