研究概要 |
ネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染猫では急性期後無症状の時期が存在し,その後後天性免疫不全症候群(AIDS)に至る発症経過をたどるが,発症の頻度とその際の引金になる各種刺激については不明な点が多い.まずFIV自然感染無症状キャリアー猫11例の2年間の飼育観察を行い,11例中4例で病期進行を認めた.病期の進行に際して3例ではまず最初に持続性全身性リンパ節腫大(PGL)が認められ,つぎにAIDS関連症候群(ARC)を発症した.別の1例ではPGLとARCの発症がほぼ同時に見られた.ARC期は10ヶ月以上持続し,2例はAIDSに進行した.発症猫の各病期におけるリンパ球幼若化反応は,病期の進行に一致して低下を続けた.これらの観察結果から,自然感染無症状猫は2年間で約3割が発症し,死亡率は約18%であることがわかった.次に実験感染系における発症の可能性について検討した.これまでに世界で実験感染が行われているが発症に成功した報告はなく,実験的環境における発症補助因子の欠如も示唆されているため,FIV感染無症状キャリアー猫に実験的処置を加え発症補助因子の検討を行うと同時に,実験感染発症系の作出を目標とした実験を行った.FIVペタルマ株実験感染無症状猫に長期持続型ステロイド,リンパ球刺激物質(血清胸腺因子)を投与しても,あるいは二次感染として非病原性ワクチニアウイルスを接種しても病期の進行はみられなかった.また低下したCD4数に対する回復効果は血清胸腺因子ではみられなかったがワクチニアウイルスではCD4数を増加させる効果がみられた.これらでは補助因子としての性格が認められなかったため,次にウイルス側の要因を検討した.わが国の自然感染発症猫から分離されたウイルスを用い実験感染を行ったところ,5例中3例が発症して死亡した.病理学的にはそのうち1例はAIDS,2例はAIDS関連症候群で死亡したものと考えられた.このことから,実験的にも病期が進行して発症する系が作出可能であり,発症には少なくともウイルス側の病原性が強く関係していることがわかった.
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