研究概要 |
1991〜1993年の3年間の一連の研究で、我々は線維腺腫、線維肉腫、乳頭状腺腫、扁平上皮癌、可移植性性器腫瘍の血管系について観察し、それぞれの腫瘍血管の特徴を明かにしてきた。それぞれの腫瘍血管に共通する特徴として、腫瘍動脈の分枝部では血流調節機構であるintra-arterial cushionが存在せず、腫瘍内の動脈は血管壁に退行性の変化が認められることを確認した。平成3年度では、線維腺腫(ラット)、線維肉種(ラット)、7,12dimethy1-benzanthracene誘発ラット乳癌の腫瘍血管の壁構造の変化を、心臓から腫瘍に到達するまでのあらゆる部位の連続組織切片を作成し、腫瘍動脈の血管病変を観察した。その結果、腫瘍から離れた部位の動脈では血管壁構造には変化がなく中膜を構成する平滑筋は層状に豊富に存在するが、腫瘍付近の動脈壁には平滑筋細胞に形質溶解様変化や空胞化などの退行性変化が顕著で、腫瘍内の動脈では中膜の平滑筋細胞層が消失して膠原線維からなる結合組織に置き換えられていることを認めた。このように腫瘍動脈に変性が起きれば動脈本来の血流調節の為の自動収縮能はありえず、『腫瘍への血流あるいは腫瘍内の血流に合理性がなく、独特の血流動態が認められる』という説を、病理組織学的に裏付ける結果となった。今回の腫瘍血管の連続切片法による徹底した観察所見は、従来より我々が行っている樹脂鋳型走査型電子顕微鏡法で得られた所見を裏付けるものでもあった。 これらの結果については、Exp.Anim.42(4),593-599,1993,J.Vet.Med.Sci.56(6).1994およびJ.Vet.Med.Sci.57(3).1995に発表した。
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