1.染色体転座の細胞遺伝学的解析:染色体転座を保有していることが認められた、ホルスタイン種雄牛(No.1)の血液と皮膚由来の細胞を培養して染色体標本を作製し、分析したところ、両組織の細胞すべてに転座型染色体が1個認められた。染色体のG分染法によって、この転座は染色体No.1とNo.21の動原体部分の欠損と融合によるロバ-トソン型転座であること、これまでホルスタイン種牛では報告されていない新しい型の染色体転座であることが明らかとなった。また、C分染法により、転座型染色体は2動原体型であることが認められた。 2.染色体転座の起源に関する研究:本牛(No.1)ではその核板(metaphase Plate)中に、染色体の転座と共に微小なfragmentを保有していることが認められた。このfragmentは血液のみならず皮膚由来の細胞でも非常に高率に観察された。そこで、血液培養液中にBrdUを添加して、細胞分裂に伴うfragmentの消矢の有無を分析したところ、細胞分裂の2世代目の細胞での出現率に比べ、3ないし4世代目の細胞ではその出現率は低下することが認められた。さらに、本牛(No.1)の生産子牛中にこのfragmentが伝播するか否か調べたところ、大半のものには出現しなかったが、2頭(2/25頭)で同様のfragmentをもつものが観察された。これらの結果から、このfragmentは転座形成時に切断された動原体に由来するもので、従来の学説とは異なって個体内の細胞分裂の過程をとうして保存されるDNA物質であること、ならびに減数分裂の過程で消矢し易いが、僅かながら生殖細胞に移行するものがあることが認められた。 3.家系分析:転座保有の雄牛(No.1)と異母の半きょうだい雄牛5頭について染色体分析を行ったが、いずれも染色体の伝座は認められなかった。また、本牛(No.1)の生産子牛25頭中、14頭の約半数のものに父牛の転座染色体が伝播していることが認められた。本牛の両親牛はアメリカで飼育されていて、分析できなかった。
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