ブタ胎子膵細胞の異種移植に対する紫外線照射の効果

1991 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03660322
• 研究機関: 山口大学
• 研究代表者: 田浦 保穂 山口大学, 農学部, 助教授 (80163153)
• 研究分担者: 中間 實徳 山口大学, 農学部, 教授 (90081596)
• キーワード: 胎子 / 膵移植 / 異種移植 / 紫外線照射 / 糖尿病 / 犬 / ドナ-処理

研究概要

(緒言)本研究では、犬の糖尿病を治療する目的で、異種動物の胎子膵移植片に直接紫外線(UV)照射し、技その治療効果について検討した。
(材料および方法)膵全摘出後、安定した糖尿病期になった12頭の雑種成犬を異種、同種移植または対照(非移値)群のレシピエントとして用いた。ドナ-膵は避妊手術時に得られた50ー55日齢の猫胎子膵2〜5個であり、組織片またはコラゲナ-ゼ処理後培養したラ島、UV照射24時間培養後に、大網ポ-チや脾内に移植した。UV照射は、UVライト(UVMー57,302nm,UVP)を用いて1%FCS添加のRPMI1640培地に浮遊させたドナ-に距離10cmから直接10分間行った。移植後の飼料摂取量は移植前と同じであり、免疫抑制剤は全く投与しなかった。
(結果および考察)ラ島細胞は、UV照射後も高い生存率を示し、かつラ島リンパ球混合培養試験における応答が、UV非照射ラ島細胞よりも91.1〜41.4%も抑制したことから、UV照射により異種ドナ-膵のクラスII抗原が抑制されたことが示唆された。異種移植した5頭全例の移植後の1日インスリン要求量は、移植前のそれよりも65.4ー15.8%も低下し、また空腹時血糖値は移植前の415.4±101.8mg/dl(平均±標準偏差)に対して、移植4ー13週後には127.8±30.2mg/dlと有意に低下し、尿糖が陰性になるものがみられた。移植により体重の増加は認められなかったが、体重の減少率は移植前の80.1±27.1g/日から移植後は27.3±7.9g/日へと低下し、さらにその生存日数は非移植群(3頭)の34.7±10.1日に比較して77.8±34.4日と有意に延長し、移植の効果が認められた。なお同時に実施した同種移植群(4頭)の存在日数は、113.8±36.9日であった。
(まとめ)以上の結果から、免疫抑制剤を併用することなく、異種胎子膵に直接UV照射し、その後異種移植することは、犬の実験的糖尿病の治療に対する有効性が示唆された。

研究成果

• [文献書誌] Taura,Y.,Stein,E.and Mullen,Y.: "Suppression of MLR and DTH responses in miniature swine by pretreatment with ultraviolet(UV)ーirradiated peripheral blood lymphocytes." Jpn.J.Vet.Sci.52. 1163-1170 (1990)
• [文献書誌] Taura,Y.,Mullen,Y.,Pupoian,T.,Tsunoda,T.,and Shiogama,T.: "Early in vitro detection of interleukinー2ーlike activities by pretreatment with allogeneic blood lymphocytes in miniature swine." J.Vet.Med.Sci.53. 365-369 (1991)
• [文献書誌] Une,S.,Taura,Y.,Nakama,S.,and Ejima,H.: "Immunosuppression in dogs by pretransfusions with ieltraviolet(UV)ーirradiated whole blood." J.Vet.Med.Sci.53. 811-816 (1991)
• [文献書誌] 田浦 保穂,宇根 智,保田 昌宏,高島 一昭,田辺 茂之,中間 實徳: "異種移植へのアプロ-チ" 小動物臨床研究会年次大会proceedings. 12. 418-429 (1991)
• [文献書誌] 宇根 智,田浦 保穂,宮本 忠,江島 博康,中間 實徳: "犬の異系間輸血による免疫応答の変化" 小動物臨床研究会年次大会proceedings. 12. 430-436 (1991)
• [文献書誌] 田浦 保穂,保田 昌宏,宇根 智,高島 一昭,中間 實徳: "犬の胎子膵同種・異種移植" 小動物臨床研究会年次大会proceedings. 12. 450-451 (1991)