研究概要 |
[緒言]本研究では,犬の糖尿病の治療を目的に,異種動物の胎子膵組織に直接紫外線(UV)照射し,その治療効果について検討した。 [材料および方法]レシピエントとして膵臓全摘出後安定した糖尿病状態になった11頭の雑種成犬を用い,異種移植または対照(非移植)群に分けた。ドナー膵はブタ胎子が得られなかったので,50-55日齢の猫胎子膵2-5個を代用し,組織片またはコラゲナーゼ処理後培養した膵島を,UV照射24時間培養後に大綱ポーチや脾内に移植した。UV照射はUVライト(UVM-57,302nm)を用いてドナーに距離10cmから直接10分間行った。移植後の飼料摂取量は移植前と同じであり,免疫抑制剤は全く使わなかった。 [結果および考察]膵島細胞は,UV照射後も高い生存率を示し,かつ膵島リンパ球混合培養試験における応答が,UV非照射ラ島細胞よりも73.4±8.8%(平均±標準誤差)に抑制したことから,UV照射により異種ドナー膵のクラスII抗原が抑制されることが示唆された。異種移植した6頭の移植後のインスリン要求量,尿糖,空腹時血糖値は減少傾向にあったが,同時に実施した同種移植では移植後に有意に改善されたのに比較して,異種移植群では有意差は認められなかった。移植により体重に増加は認められなかったが,移植により体重の減少を少し抑制することはできた。したがって,レシピエントの生存日数は,非移植群(5頭)の24.6±6.5日に比較して84.2±14.1と有意に延長し,移植の効果が認められた。なお同種移植群(5頭)の生存日数は,252.2±66.1日(最長504日以上)であり,ドナーのUV照射のみで移植効果が認められた。 [まとめ]以上の結果から,免疫抑制剤を併用することなく,異種胎子膵に直接UV照射し,その後異種移植することは,犬の実験的糖尿病において,生存日数を延長させることは可能であるが,有意な移植効果は認められず,他の方法との併用が必要であることが示唆された。
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