研究概要 |
本研究では、生理的な必須微量元素であるビタミンA(Retinol),ビタミンE(α-Tocopherol)が、潜在性乳房炎とどう関係しているかを調べ、泌乳牛の乳房炎防御に重要な役割を果たす食細胞である好中球の機能にどのような影響を及ぼすかを解明し、さらに乳房炎の発症にとって最も重要な乳頭部の形態を詳細に観察した。 飼養管理の良好な一酪農家の乳牛40頭について、月1回1年間、採乳と採血を実施し、乳量、乳質、乳房炎、血液、血清ビタミンA、Eを検査した。その結果、乳汁の電気伝導度と体細胞数検査が乳量・乳質の状態を比較的良く反映すること、ビタミンE値とこれら検査値の間に関連のあることが示唆された。 泌乳牛血液由来の好中球殺菌能に及ぼすRetinol、α-Tocopherolの影響をin vitroで、NBT還元試験を用いて検討した。好中球を血液中より分離し、培地に各濃度のRetinol、α-Tocopherolを添加してNBT還元試験をした結果、Retinolでは100IU/dlで、α-Tocopherolでは200μg/dlで最も高い還元能が得られた。また好中球分離後にこれらを添加し培養したものと、無添加培養後のNBT還元能を培養前の値と比較すると、無添加ではその還元能が約半分になったのに対し、添加群はいずれも維持された。以上の結果、泌乳牛の血液中好中球殺菌能はRetinol、α-Tocopherolの濃度に強く影響され、またその存在によって殺菌能が維持されることが明らかとなった。 乳房炎の発症にとって最も重要な乳頭各部位を測定し、乳質検査、細菌検査をしてその関連を追及した。その結果、乳頭傾斜度の大きい乳頭や乳頭管直径の大きい乳頭は乳房炎に罹患しやすいことが示された。ついで乳頭を水浸法により超音波診断法で観察し、形態的、組織学的観察所見と比較した。これらはよく一致し、超音波診断法は乳頭の内部構造を簡易に詳細に明らかにするので、乳房炎の診断と治療に大変有用な手技である。
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