研究概要 |
シマアジの全身性真菌病の原因菌としてScytalidium SP.が分離された。病魚の外観的特徴は体表の黒斑と潰瘍で,特に背鰭基部,吻部,肛門において顕著であった。内臓病変は肉眼的には観察できなかった。体表患部および内臓諸臓器の直接鏡検にて淡褐色の有隔生菌系と分節型分生子が見出させた。体表患部から菌の培養を試みた結果,上述の菌およびOchrocomis humicolaが分離された。分離菌のシマアジ稚魚への接種試験において,両菌ともに全身性真菌病の原因菌であると判定されたが,病原性および病理組織学的所見から,Scytalidium SP.が主たる原因菌であると判断された。すなわち,病理組織学的にO.humicolaは一部の個体の体表から浅部躯幹筋組織にかけてみられ,他臓器には波及していなかった。一方,Scytalidium SP.の菌系は体表から筋肉深部にかけて発育し,組織を貫通して腎臓内に伸長していた。さらに血行性に心臓,鰔,脾臓にもみられ,患部は組織壊死を示した。菌の感染部位は体表で,組織貫通および血行により他臓器に伸長すると考えられた。 シマアジから分離された両菌種の菌体外産物と菌体をギンギョに接種し,それらが与える影響を病理組織学的に検討した。菌体接種群では来菌体はともに好中球による貧食を受けたが,筋線維の壊死が見られた。その後単核球が主体となり集族して類上皮細胞性肉芽腫を形成した。これらの結果から,死菌でも肉芽腫を形成することが判明した。また肉芽腫の周囲にはリンパ球が浸潤していたことから,細胞性免疫が関与している可能性も示唆された。菌体外産物種群ではともに筋線維の広範囲にわたる融解性の壊死と好中球,単核球などの一過性の出現を特徴としていた。その後,壊死した筋線維は再生筋線維により修復された。このことから両菌種の菌体外産物中には筋肉を分解する酵素が存在すると思われ,これらが感染に重要な役割を担っているものと考えられた。
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