研究概要 |
シマアジ稚魚に発見された全身性真菌病の原因菌として不完全菌類のScytalidium sp.とOchroconis humicolaの2種類が分離されたが,自然発症魚および人為感染魚の病理組織学的所見から,斃死原因および病害性には前者のScytalidiumがより重要な役割を果たしていたと考えられた。このことから,振盪温度勾配培養装置を使用してScytalidium spのK2株について発育至適温度を求めた。本試験はまず,PYGS寒天培地でK2株を前培養しておき,これをコルクボーラーで打ち抜き,その1個を液体培地に接種し、緩やかに振盪培養を行い,7日後に菌の発育程度を肉眼的に判定すると共に,光電比色計で菌の発育とともに産生される黒色色素の濃度を測定した。さらに発育の認められなかった培養温度の菌の生存性をも確認した。その結果,供試菌は肉眼的に10℃から32℃の範囲で発育を示し,特に22℃から28℃の範囲で良好な発育を示した。比色試験の結果では,24℃が最適温であると判断された。いっぽう,低温で発育の認められなかった5℃と8℃,および35℃以上の温度では菌は死滅していた。これらのことから,本菌はヒトを含む哺乳動物に感染する危険はなく,たとえ,感染魚を生食したとしてもヒトの体内で本菌が繁殖する恐れはないと判断された。しかし,本症が一旦,海産魚類に発生した場合には多数の魚が斃死する可能性がある。このことから本菌に対する各種薬剤の最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を求め,どの薬剤により治療または防除可能であるかを検討した。その結果,各薬剤に対するMIC値はホルマリンが315〜625μg/ml,ポリフェノール,カテキンおよびシクロヘキシミドガ1,000μg/ml以上,グリセオフルビンが100μg/ml以上,マラカイトグリーンが1.56〜3.13μg/mlであった。この結果から判断すると,本症罹病魚を薬剤で治療することは困難であると推察される。従って,今後は蔓延を防除する手法の開発が重要になるものと思われた。
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