近年細胞膜の裏打ち構造が注目されているので赤血球を使用して円盤状形態保持に関与する膜骨格の微細構造を検索した。ヒト赤血球膜細胞質側にはスペクトリン四量体がアクチン、バンド4・1などの蛋白質と結合して網状構造を形成している。これらの網状構造はアンキリンやバンド4・1を介してバンド3やグリコフォリンに結合していると考えられている。しかしこれらの裏打ち構造の赤血球膜上の局在は、主にグルタールアルデヒド・四酸化オスミウム固定・アルコール脱水・合成樹脂包埋試料による透過型電顕法により報告されてきた。このような電顕試料作製法による形態学的解析では、固定・脱水・包埋などにともなう形態学的変化を避けることはできなかった。すでに平成3年度に赤血球膜細胞質側を高解像力で三次元的に直接解析する急速凍結・ディープエッチング法を開発した。この方法によりヒト赤血球膜細胞質側のスペクトリン網状構造のin situ局在を明らかにすることができた。また平成4年度には、膜骨格蛋白の免疫染色によりその局在と結合様式を明らかにし、ヒトの遺伝性球状赤血球症や楕円赤血球症などでは、正常構造に比較してスペクトリン網状構造が減少し、顆粒状構造が多く観察されたため、スペクトリン蛋白の結合異常によることが明らかにされた。さらに平成5年度には、哺乳類以外の種々赤血球膜細胞質側を検索し、系統発生学的検討を加えた。鳥類(ニワトリ)や両生類(カエル)の有核赤血球などでは、スペクトリン蛋白以外の微小管(チュブリン)やアクチン細線維が膜骨格を形成していた。以上より赤血球形態維持には種々の細胞骨格の関与が示唆された。
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