1.胃腸粘膜の組織形成過程における細胞間結合の役割を、本年度は主として凍結割断レプリカ法により観察した結果、粘膜に突起(腸繊毛)や管状陥凹(胃腺、腸陰窩)が形成される際には、二次連結複合体と上皮内腔の形成及び癒合が中心的な役割を果すという、前年度までの主として超薄切片法による観察結果を確認することができた。 2.個体発生途上の小腸における吸収上皮細胞の分化とギャップ結合の形成を、主として凍結割断レプリカ法により観察した。ギャップ結合は吸収上皮細胞の分化が始まると同時に観察されるようになる。ギャップ結合は先ず閉鎖結合系に付属して現れるが、これは閉鎖結合による隣接細胞膜の密着がギャップ結合の形成に好都合に働くためであるう。次いでギャップ結合は閉鎖結合系から離れて急速に大きさと増すが、この際には通常のコネクソンより大きい大粒子がいわゆるFormation Plaque状の領域を形成したり、六角形配列をとったりする。同様のことは成熟動物の小腸上皮細胞更新過程において吸収上皮細胞の分化・成熟の行われる腸陰窩でも観察されるが、繊毛の成熟吸収上皮細胞間にはほとんどギャップ結合はない。このことはギャップ結合は吸収上皮細胞の分化・成熟には重要であるが、成熟した細胞の吸収機能にはあまり関係がないことを示唆する。 3.再発性胃潰瘍患者の非潰瘍部粘膜の表層粘液細胞間のギャップ結合の発達を、正常人胃粘膜のそれと、凍結割断レプリカ法により半定量的に比較観察した結果、再発性潰瘍患者ではギャップ結合の発達が悪いことが明らかになった。このことはギャップ結合による細胞間カップリングが不十分なことが粘膜防御能の低下をきたし、再発性潰瘍の素因になっていることを示唆している。
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