研究概要 |
Hepatocyte Growth Factor(HGF)について、市原(徳島大)、中村(九州大)のグル-プが勢力的に研究を行っており、世界の最先端を走っている。私たちは彼らの研究とはまったく別個の考えから,肝細胞と肝非実質細胞の相互作用を研究する過程で、正常な肝臓自身に肝細胞増殖因子が常に存在することを明かにした(A.Masumoto and N.Yamamoto:Biochem.Biophys.Res.Comm.174,90ー95,1991)。本年度はこの因子の精製を中心に行った。ラット肝臓還流液を出発材料として、高速液体イオンクロマトグラフィ-、高速液体へパリンアフィニテイ-クロマトグラフィ-、高速液体逆相クロマトグラフィ-を組み合わせて、ほぼ単一のタンパクとして精製できた。その非還元条件下での分子量は約8万である。目下免疫学的・DNAハイブリダイデ-ション法などによって、本因子がHGFと同一であるかを決定するための準備を行っている。また本因子と類似物質がヒト胎盤に多量に存在することも明らかにした。 最近増殖因子といわれるものの中に、細胞増殖だけでなく、細胞の機能分化や形態形成に関与するものがあることが知られている。HGFも“Scatter Factor"や“Morphogen"といわれる物質と同一であることが指摘されている。bFGFも血管内皮細胞の増殖を促進するだけでなく、血管内皮細胞からのTissue Plasminogen Activatorの分泌を促進する作用があることが指摘されている。このことはbFGFが核内に移行し、遺伝子発現を制御する可能性を示唆しといる。そこで、bFGFを産生することが知られているA431 Human Epidermoid Carcinoma CellにおけるbFGFの局在を免疫組織学的に検討した。そして本因子が外部からの増殖刺激によって核小体に移行することを明らかにした(N.Yamamoto et al.Histochemistry,96,479ー485,1991)。また各種胎齢ラット胎児を用いて発生中の各臓器におけるbFGFの局在を検討し、間葉系由来の各細胞でbFGFが核小体に存在することを明らかにした。以上の結果からbFGFは増殖因子としての機能以外に、核での遺伝子発現を制御するのではないかと考えている。この仮説を立証するため目下、ヒト大腸癌細胞のヌ-ドマウス皮下における生育過程と周辺細胞のbFGFおよびTissue Plasminogen Activator挙動との関連を検討している。
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