小腸絨毛上皮下でネットワークを形成している線維芽細胞(筋線維芽細胞)は、星状でアクチンに富み、毛細血管や平滑筋に突起を伸ばしている。毛細血管の収縮弛緩や血管、神経、平滑筋との間の情報伝達に何らかの役割を担っているのではないかと古くから推測されてきたが、実体は不明であった。私達は強力な血管作働物質であるエンドセリンがこれらの線維芽細胞に特異的に結合することを電顕オートラジオグラフィーにて明らかにしてきた。次にこの線維芽細胞の培養法を確立し、種々の血管作働物質や神経伝達物質に対する細胞の反応をFura-2による細胞内Ca測定法にて測定を行った。筋線維芽細胞は、セロトニン、サブスタンスP、ブラジキニン、アンギオテンシンII、エンドセリン-1、エンドセリン-3などにより、細胞内Ca濃度が一過性に上昇し、時としてCa振動が見られた。また、筋線維芽細胞は血清を含む培養液中ではフラットな形態を示すが、dBcAMPにより星状へ変化し、エンドセリンにより星状からフラットに変化した。これらの形態変化はCaイオン除去液中でも起こった。BAPTAを取り込ませた細胞ではカルシウム反応は消失したが、形態変化は誘起された。又、dBcAMP潅流によっては細胞内カルシウムに変化はみられなかった。以上のことから、筋繊維芽細胞の形態変化は細胞内cAMP濃度に依存し、カルシウム非依存性であることが明らかになった。また、この形態変化の過程を免疫組織化学にて観察すると、F-アクチンが星状では脱重合していた。 この様に、筋線維芽細胞の形態変化の機構、および各種の生理活性物質に対する反応は脳におけるアストロサイトと非常に類似しており、アストロサイト同様、異種細胞間の情報伝達を担っている可能性が推測される。
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