研究概要 |
小腸粘膜表層には上皮細胞刷子縁膜のNa^+/H^+逆輸送と陰イオン交換体的性質を持つムチン層の形成により、500〜600μmの厚さに亘り、低pH層が形成されている。このミクロ環境の低pHはペプチドの吸収には重要であることが知られているが、Ca^<2+>、Mg^<2+>吸収に果たしている役割が未知であるため、それを解明するため、まずモルモット小腸におけるミクロ環境最低pH値の部位差及び小腸各部位のCa^<2+>、Mg^<2+>の能動的吸収フラックスの測定を行った。その結果、モルモットでは小腸全長に亘り略等しい低pH値(約6.0)が維持されていることが明らになった。Ca^<2+>、Mg^<2+>の能動的吸収フラックスもモルモットでは全長に亘って見られ、Mg^<2+>フラックスは、やや回腸で大であることが判明した。Mg^<2+>フラックスは等モル(0.5mM)のCa^<2+>の存在によって抑制されないが、Ca^<2+>フラックスはMg^<2+>で抑制されること、無Na^+条件、ウワバインはMg^<2+>フラックスを略完全に抑制するがCa^<2+>フラックスに対しては部分的に抑制すること、verapamil,D600もCa^<2+>より強くMg^<2+>フラックスを抑制することが明らかとなった。一方難溶性Ca塩(CaHPO_4,CaCO_3,Ca-oxalate,フィチン)等がこの腸ミクロ環境pH勾配のpH範囲(7.4〜5.5)の間でどのようにpH依存性に解離するかをCa^<2+>電極並びpH電極を用いて調べた結果、何れもこの範囲で解離は促進され、腸内のイオン環境と等しい150mM NaCl存在下ではCaHPO_4(5mM)、CaCO_3(5mM)は略完全に解離し、6Ca-phytateも著しく解離が促推されることが明らかとなった。一方Ca-oxalateはこのpH範囲では解離の促進が見られなかった。実際にこれらpH依存性解離を示す難溶性Ca塩の懸濁液中に反転腸管を浸し正味Ca^<2+>フラックスをDTT存在下でpH7.4、6.0で比較すると何れの場合もpH6.0で著明に吸収フラックスが増大することが観察された。このことから腸ミクロ環境pH勾配はペプチド吸収のみならずCa^<2+>の吸収にも重要な役割を演じていることが確かめられた。
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