本研究の目的は、降圧野である尾側延髄腹外側野(CVLM)に存在し、吻側延髄腹外側野(RVLM)の交感神経興奮性延髄網様体脊髄路ニューロン(RVLMニューロン)の活動を抑制するニューロン(CVLMニューロン)が、種々の交感神経抑制性反射に関与しているのか否か、電気生理学的、薬理学的に解明することである。 CVLMニューロンが交感神経反射の1つである体性交換神経抑制性反射に関与していることを明らかにするために、ウレタン麻酔、非動化したウサギを用い、動脈圧受容器反射および体性交感神経反射を記憶しながら、1)単一CVLMニューロン活動の記録、2)CVLMニューロンの破壊、3)神経伝達物質の拮抗薬の微量投与をCVLMとRVLMに行う実験を行った。 1.CVLMニューロンは体性感覚刺激(痛覚を伴うような刺激)に対して興奮性に応答し、これに伴い交感神経活動の抑制と血圧低下が生じた。 2.動脈圧受容器線維である大動脈神経を電気刺激したときの交感神経の抑制性反射反応(動脈圧受容器反射)、および後肢の皮膚神経である腓腹神経を刺激したときの交感神経の反応の抑制性成分(体性交感神経抑制反射)は、CVLMのニューロンを神経毒であるカイニン酸を投与し破壊すると、消失した。 3.RVLMにGABAの拮抗薬であるビククリンを投与すると、動脈圧受容器反射および体性交感神経抑制反射は消失したが、体性交感神経反射の興奮性反応には影響がなかった。 4.CVLMにグルタミン酸の拮抗薬であるキヌレン酸を投与すると、動脈圧受容器反射は消失したが、体性交感神経抑制反射には変化が認められなかった。 以上より、動脈圧受容器反射、体性交感神経抑制反射には、CVLMニューロンが不可欠であり、これらの抑制反射は、RVLMのGABAレセプターを介してRVLMニューロンの活動が抑制されたために生じると結論された。動脈圧受容器反射の際、CVLMニューロンはグルタメイトレセプターを介して興奮するが、体性交感神経抑制反射の際はグルタメイトレセプター以外のレセプターによって興奮すると結論された。 体性交感神経反射の抑制性反応のCVLMにおける神経伝達物質および興奮性反応のRVLMにおける神経伝達物質の同定は、今後の課題として残された。
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