申請者らはこれまでに、垂直眼球位置信号を正確にコードするニューロンが前庭神経核に多数存在すること、これらが垂直半規管入力を受ける二次ニューロンであり運動ニューロンに直接投射結合すること、またこれらの位置ニューロンはカハール間質核にも投射することを明らかにしてきた。本研究では、前庭神経核とカハール間質核が眼球位置信号の形成に果たす役割を解明するために、カハール間質核ニューロンの発射様式と前庭神経核への投射を調べ、以下の知見を得た。 1.実験には覚醒ネコを用いた。カハール間質核より単一ニューロンのスパイク活動を記録し、注視時の垂直眼球位置に比例した活動を示すニューロンを解析の対象とした。解析したニューロンの約半数は眼球が上を向くときに、残り半数は下を向くときに活動の増加を示した。 2.カハール間質核の位置ニューロンの多くは、対側前庭神経の電気刺激に対し2シナプス性の興奮性応答を示した。頭部回転刺激に対する応答を調べた結果、上向きの位置ニューロンは対側前半規管から、下向きの位置ニューロンは対側後半規管から入力を受けることが明らかにされた。 3.カハール間質核位置ニューロンの前庭神経核への投射を微小電流刺激法により調べた。下向きの位置ニューロンの約3分の1は、同側前庭神経核の刺激に対し低閾値で逆行性に応答し、閾値と潜時の分布から前庭神経核の中で分枝することが示された。これらの位置ニューロンはいずれも後半規管入力をうけるものであった。 4.以上の結果から、垂直位置信号をコードするカハール間質核のニューロンは、対側前庭神経核の位置ニューロンからの直接入力を受け、しかも同側の前庭神経核にその位置信号を直接送り返していると考えられる。このことは、位置信号の形成機構として想定される一種のpositive feed-back 回路が、カハール間質核と前庭神経核により作られる可能性は強く示唆する。
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