ウシガエルの交感神経節では、節前線維の頻回刺激により興奮性後シナプス電位(EPSP)が長時間増大し、シナプス伝達の効率が長期促進(LTP)される。このLTPは、伝達物質(アセチルコリン)の放出量の持続的増大により生じる。今回、LTPの発現に関わる機序について調べた。得られた結果と結論は次の通りである。 1.LTPの発生中、2回刺激により生じる短期促進の割合はLTPの大きさに依存して減少した。頻回刺激を与えた後には、自発性のEPSP(mEPSP)の発現頻度の持続的増加が生じた。Ca^<2+>イオノフォア(A23187)でEPSPの振幅は増加し量子数の増大がみられた。mEPSPの頻度も増大したが短期促進は逆に減少した。Ca^<2+>緩衝能をもつQuin‐2により、量子数の減少によるEPSPの振幅の減少と短期促進の減少、またLTP発現の消失が生じた。これらの結果は、LTPの発現と維持に神経終末内のCa^<2+>濃度の増加とその持続的増大が必要であることを示唆する。 2.次にLTPの発現に関わる細胞内情報伝達系について検索した。 プロテインキナーゼCの活性剤(ホルボールエステルとOAG)を投与しても、またその抑制剤(H‐7とstaurosporine)を与えてもLTPに何ら影響を与えなかった。よってC-キナーゼ系はLTPの発生とは無関係である。カルモジュリンの阻害剤(trifluoperazineとW-7)を作用させるとEPSPの振幅や量子数は変らないのにLTPの発現が抑制された。このことは神経終末内においてカルモジュリンに依存した代謝経路の活性化がLTPの発現に必要であることを示唆する。現在、LTPに対するアラキドン酸カスケード系の有無を調べている。この系に作用する薬剤の中にはシナプス伝達に直接影響を与え、EPSPの振幅を変えるものが多々見出された。よってこれらの作用機序をよく解析したうえでLTPとの関わりについて結論するつもりである。研究は進行中である。
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