研究概要 |
海馬采を刺激して外側中隔核で記録されるシナプス後電位には、興奮性アミノ酸を伝達物質とする興奮性シナプス後電位(EPSP)、及びGABAを伝達物質とする2種類の抑制性シナプス後電位(IPSP,LHP)が知られている。今回の研究では、背外側中隔核におけるこれらシナプス伝達に対する興奮性アミノ酸の作用を検討した。まず、成熟ラットの背外側中隔核を含むスライス標本を用いて細胞内電位記録を行った。ピクロトキシン存在下で、代謝型興奮性アミノ酸受容体アゴニストのひとつであるtransーACPD(50μM)を作用させるとEPSP、LHPの抑制がみられたが、作用中止後10数分頃からEPSP、LHPの増大がみられはじめ、その後数時間にわたり持続することをみつけた。また海馬采をテタヌス刺激することにより、その後10数分続くシナプス後電位の増強(STP)や2時間以上続くシナプス後電位の増強(LTP)がみられた。驚くことに多くの場合LHPの増強が著明にみられ、EPSPの増強は一部のニュ-ロンでみられるのみであった。LHPのSTPはNMDA受容体アンタゴニストであるAPVにより抑制されること、また直接刺激して記録した単シナプス性LHPはテタヌス刺激後増強がみられないことから、このLHPの増大には介在ニュ-ロンにおけるEPSPが関与していることが示唆される。LHPのLTPもAPVにより抑制されるが、高濃度APVでも完全には抑制されないものがあった。これらの結果は、海馬の興奮性が異常に高まったとき背外側中隔核では逆に抑制性シナプス後電位の長期増強(LTP)が起こることが示唆され、この誘発にNMDA受容体のみならず、代謝型グルタミン酸受容体が関与していることが示唆された。現在スライスパッチ法を適用して、細胞内メカニズムその他について解析中である。
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