本研究では、光刺激に極めて鋭敏に反応すると共に、視交叉上核(SCN)にある生物時計のリズム位相を直接的に反映する松果体メラトニンを指標に、ラットを用い、光同調機序を明らかにすることを目的として以下の4つの実験を行い、下記のごとく結論を得た。 1.松果体への光の二重効果の伝達経路:光による松果体メラトニン合成抑制とリズム調節の2つの反応を伝達する経路が同一かどうかを、同一照度の2種の単色光を用い検討した。その結果、今回使用した赤色光では、メラトニン合成は抑制られたがリズム変位は生じなかったため、メラトニン合成抑制のほうがより閾値が低いこと、両者への光伝達経路である網膜視床下部路は機能的に異なる線維を含むことが明らかとなった。 2.メラトニン光抑制の波長と位相依存性:0時と4時に同一光子量の赤と緑の単色光を照射したところ、0時には赤色光による抑制は殆どみられなかったが、4時には両単色光とも速やかにメラトニン合成を抑制した。メラトニン合成抑制は光の波長とリズム位相に依存し、緑色光は赤色光より、暗期後半は前半より、強く抑制することが明かとなった。 3.松果体in vivoマイクロダイアリシスによる光の二重効果の検討:松果体マイクロダイアリシス法により連続4日間の透析を行い、30分毎メラトニンを測定し、光の二重効果を検討した。その結果、同一ラットで上述の光抑制の時刻差が確かめられ、さらに光によるメラトニンリズム位相の変位が照射の翌日には完了していることが明かとなった。 4.網膜視床下部路の伝達物質の検討:in vivoへの投与で唯一光類似作用を生じるとされるコリン作動薬カルバコールをSCN内に投与し、松果体マイクロダイアリシス法にてメラトニンリズムへの影響を検討したが、メラトニン合成抑制もリズム位相変位もみられなかった。アセチルコリンが網膜視床下部路の伝達物質である可能性は低いと考えられる。
|