非ふるえ熱産生(NST)の主要発現部位である褐色脂肪組織(BAT)の機能調節機構を調べるために、種々環境下で飼育したラットでin vivo及びBAT細片を用いてin vitroで、ノルアドレナリン(NA)、グルカゴン(G)およびβ_3アドレナージックアゴニストであるBRL37344(BRL)に対する反応を比較検討して以下の結果を得た。1.歴代寒冷馴化ラット(CA-SG)は寒冷馴化ラット(CA)と同程度の非ふるえ熱産生(NST)能を有するが、より少ないエネルギー代謝で寒冷に順応している事が示唆された。2.雌のNST能は雄と差がなかった。3.CAのBATミトコンドリアのGDP結合能は、安静時には温暖対照群(WC)と差が無かったが、急性寒冷曝露では著しく高かった。又飼育環境下ではWCよりわずかに高いだけであった。一方反復寒冷曝露群(ICE)では安静時、急性寒冷曝露時共に高かった。4.in vivoでの高いNST能にも関わらずCAのin vitro熱産生はNA、G、BRLの何れに対しても抑制されていた。この抑制はセカンドメッセンジャー以降の情報伝達系に起きている事が推察された。一方、ICEではWCと差が無かった。5.脂肪分解能と熱産生量との関係は馴化状態により差があり、ICEでのみ正の相関々係が見られた。6.NA持続投与はCAをシミュレートしたが、Gでは出来なかった。7.新生仔期の初期でIP_3はBATの熱産生を起こした。8.甲状腺機能低下ラットでは、Gに対する最大反応、イソプレナリン、BRLに対する感受性が低下した。9.これらの結果から、GはNAと異なるルートを介して相補的にBAT機能の発現に関与している事、その作用の一部はIP_3ルートによる事、BAT機能の発現には甲状腺ホルモンが重要である事、さらに寒冷馴化時にはBAT細胞自体の熱産生能は抑制されている事等が示され今後の研究の手がかりが得られた。
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