視床下部の神経(GRHやTRH、SRIF並びにvasopressin)の線維伸展のメカニズムを追究する為、本年度はその標的組織(正中隆起)を構成する細胞各種の同定を行った。正中隆起の初期細胞培養を行い、個々の細胞の同定は特異的な抗体を用いた免疫細胞化学法にて行った。その結果、新生仔期の正中隆起の構成細胞は視床下部とは著しく異なり、アストログリア細胞ではstellate型が多い事、オリゴデンドログリア細胞は殆ど存在しないこと。また、fibroblast並びに血管内皮細胞が多量に存在することが明らかとなった。更に、従来神経細胞体がMEに存在していることは疑念視されていたが、相当数のPOMC神経細胞体が存在し、しかも胎生14日以前に発現する事も明らかとなった(Neuroendocrinology in press)。 次に、標的器官を切除した場合の当該神経線維の挙動を明らかにする為に、下垂体の摘出を行いvasopressin神経線維に与える影響を検討した。vasopressin神経は正中隆起の外層の更に外層すなわち基底層に新しい終末集団を形成した。しかし、正中隆起のアストログリア細胞やPOMC神経細胞体の分布や形状は影響されないし、SRIF神経線維やTRH線維も変化しない事が判明した。更に、視床下部神経の発育よりもアストログリアの発現が遅れることも明らかとなった。以上の実験成績は、基底組織すなわち下垂体門脈系もしくは脳軟膜の重要性を示唆している。現在、正中隆起に多い軟膜細胞並びに血管内皮細胞を多量に培養し、その培養液中に分子量約50Kで当該神経の生存率を高める因子の存在が確認され、単離・精製を行っている。
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