研究概要 |
10日間以上,暗期後半の約5時間のみ繰返し暑熱暴露したラットは,24℃の環境で深部体温及び熱産生量(M)がかつての暴露時間帯に限り低下する。これは,暑熱刺激に対する記憶が形成され,刺激がなくても対暑反応が起きたためと推察される(Shido et al.,1991)。本研究はこの現象の機序を追及することを目的とした。ラットを毎日暗期の後半5時間のみ33℃に暴露し,他の時間は24℃で飼育した群(HE)と終日24℃で飼育した群(CN)に分け,2週間以上それぞれの温熱環境に馴化させた。実験1:血中代謝ホルモン及びエネルギー基質の日内変動を検討するため,馴化期間終了直前及び終了第一日目に,0時から18時まで(3時から15時までは暗期)3時間おきにラットを断頭し採血を行った。暑熱暴露中の甲状線ホルモン(T3,T4)はHEで同時間帯のCNに比べ有意に低かったが,馴化期間終了後のかつての暴露時間帯では有意に高かった。T3,T4は代謝を増加させるため,かつての暴露時間帯での体温,Mの低下をT3,T4の低下では説明できない。血中エネルギー基質は暴露後HEとCNで差がなかった。実験2:馴化期間終了後ラットを環境温24℃の直接熱量計に入れ,連続暗期下で視床下部温(Thr),熱放散量(H),M,行動量(BM),摂食活動量(FA)を測定した。HEではかつての暴露時間帯に限りThy,M,H,BM,FAがCNの値に比べ有意に低下した。摂食後は摂食性熱産生のためMが増加する。ところが測定開始6時間前より絶食させ同じ実験を行っても,暴露時間帯のThyがHEで有意に低く,Mも低い傾向があった。従ってこのThy,Mの低下にはFAの変化以外の要因の関与が大きいと結論できた。以上本研究では,繰返し暑熱暴露後,かつての暑露時間に見られるThy,Mの低下には血中代謝ホルモンやエネルギー基質変化,摂食活動の変化以外の関与が大きいことが判明した。今後さらなる検討が必要である。
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